デザイナーの制作プロセスと照らし合わせて「デザイン思考」を紐解いてみようという試みの後編です。

「外側の視点」とデザイナー

前編では、デザイナーの作業プロセスの中で時折感じる違和感は、プロジェクトの全体を理解している人同士・内部の人同士では見えてこない問題点や、曖昧さから端を発したもので、「外部からの視点」を加えることで、「伝わるかたち」をつくりあげるヒントになるのでは?と考察しました。

デザイナーは多くの場合、外部の人間としてプロジェクトに参加することが多いと思います。そんなデザイナーが、「外部からの視点」を組み込んで、「伝える」ことに成功した事例を紹介しながら「デザイン思考」とは何かを考えてみます。


<事例その1「深澤直人」氏>
意識の共有と本質の追求

言わずと知れた「無印良品」。関わっているデザイナーも一流の方々で、商品開発より上の過程、企業の方向性を決める前の時点から参加しているようです。

デザイナー数名と企業の会長・幹部が集まって、世の風潮や、日々の暮らしの中での疑問などを話す場を定期的に設け、それによって無印良品の立ち位置や方向性を空気として共有するのだそうです。

また、商品開発においてもデザイナーが、最初の段階から、頻繁に、細部まで関わっていて、家電業界全体が「さらなる高機能化で差別をはかる」という傾向に対して、「問題の本質はそこなのか?」という外側からの視点での問題提起をします。

デザイナーの深澤直人氏が「家電は暮らしの道具。鍋や釜と同じ領域にある家電があってもいい」という思いのもと無印良品の家電の仕切り直しを提案し、結果として日本だけではなく海外からも高い評価を受けるまでに至っています。

傘立ての話

深沢氏の有名な話で「傘立て」の話があります。

傘立てのないところで、たまたま床がタイルだったりすれば、皆が傘の先端をタイルの目地に合わせて立てる。
だったら、タイルの目地と同じ幅の線が玄関に引いてあれば、それで十分だろうという考え方です。つまり、考えないでも100人が100人とも同じファンクションを抽出してタイルの目地を使う
というのがデザインの始まりであって、傘立ては円筒状をしていて云々という前に人間とモノとの関係はもう成立しているから、そこから始めたほうがいいんじゃないだろうか

【 引用元 】ジャパンデザインネット JDNリポート

人が無意識のうちにとる行動に着目し、そこから逸脱することなく製品を形作っていくことで、使いごこちや使いやすさという本質につながるということだと思います。

こういった考えが、実際に製品をかたちにしていく=デザインという行為を根底から支えているように思います。


<事例その2 「梅原真」氏>
島民のネガティブを誇りに変えた
外側だからこそ見えたもの

高知県を拠点とするデザイナーの梅原真氏は「一次産業×デザイン=ニッポンの風景」をモットーに「漁師が釣って漁師が焼いた 土佐一本釣り・わら焼き鰹のたたき」や「島じゃ常識 さざえカレー」などこれまでさまざまな地域活性につながる商品開発などに多く携わっている方です。

梅原氏自身が著書「ありえないデザイン」で「みずからがプロデューサーであり、パッケージデザイナーであり、たまには写真家でもある。たぶんコピーライターがいちばん僕に近い職業だろう」とおっしゃっているとおり、数多くの商品や企画の名前も考案しています。

先細りする一次産業の関係者との相談から始まり、何度も現場に足を運び、地元の人々に話を聞き、ともに商品開発、パッケージデザイン、経営戦略にいたるまでを一人でこなしています。

「土佐一本釣り・わら焼き鰹のたたき」は8年間で年商20億円の産業を作り、昔から続くカツオの一本釣り漁法を支え、結果としてニッポンの風景を残すことになりました。こうして最上流の段階から関わることでほかにも多くのニッポンの風景を残すことに成功しています。

また、梅原氏は地域(島)活性のプロジェクトのためにその島に赴き、島の人と接する中で「さざえを入れたカレー」を知り、商品化しました。

「島じゃ常識 さざえカレー」というネーミングは最初島の人たちからは反発する声もあったそうです。なぜなら、本当はカレーには肉を入れたいけれど経済的な理由もあって、島の周りに豊富にあるさざえをいれていたそうで島の人にとってはあまり誇れることだとは思っていなかったようです。

しかし、梅原氏は

カレーにさざえを日常的に入れる島の暮らしが豊かだと思ったので、「さざえを入れることをもっと自慢しましょうよ」ということで「島じゃ常識」というコピーをつけました。

【 引用元 】カンパネラ 辺境のデザイナー、梅原真さんの特別講義

結果として「島じゃ常識 さざえカレー」は反響を呼び、さらに島の人々のネガティブな思い込みを鮮やかに覆したそうです。

梅原氏が純粋に豊かだと感じたことを言葉(コピー)というツールを使って人々に伝えました。感じたことを軸に据えてそれを広く人々に伝わるようにするにはコピーを入れるという「伝わるかたち」をデザインしたということだと思います。

これらの思考や発想は、外部の人間であるデザイナーが、さらにその外側=ユーザーの視点・生活者の視点に立たなければ生まれないものだと思います。もっというとユーザーでさえもそれほど意識していなかったり、ネガティブな認識になっていた部分をすくい上げるような発想。

事実から分析・総合したデータ(結果)に基づく解決法ではなく、データ(結果)には見えにくい部分、気持ちいいとかおいしそうといった感性・情動を含めたものです。

たしかに、
私自身、家電の多くの機能は使っていませんし、生活空間に溶け込むものの方が快適と感じます。

傘も溝があればそこに立ててしまいます。

たしかに、
ただのカツオのたたきよりも「漁師が焼いて、漁師が焼いた」といわれると、食べてみたくなります。旅した時に「島じゃ常識」といわれると、食べてみたくなります。

<まとめ>

2つの事例に共通していることは、感性・情動など、見えにくい部分も含めて、解決策を模索するためのアプローチです。このアプローチこそ「デザイン思考」と言えるのではないでしょうか。

前回"デザイナーは「AとBをつなぐことを視覚化する」のが仕事"と書きました。「つなぐことを視覚化する」ためには、「伝わるかたち」が不可欠です。データで導かれた問題点やその解決策のほかにも、「デザイン思考」によって構築された軸があると、より「伝わるかたち」になるのではないでしょうか。

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